京都地方裁判所 昭和56年(ワ)1003号 判決 1984年9月27日
本訴原告、反訴被告(以下原告という) 長谷川実
本訴原告、反訴被告(以下原告という) 長谷川恵美子
原告ら訴訟代理人弁護士 戸倉晴美
中山福二
若松芳也
中尾誠
下谷靖子
本訴被告三共物産株式会社訴訟承継人(以下被告破産管財人という) 三共物産株式会社破産管財人 市木重夫
本訴被告、反訴原告(以下被告会社という) 日本総合信用株式会社(旧商号 西日本総合信用株式会社)
代表者代表取締役 村上守
訴訟代理人弁護士 村野譲二
中務嗣治郎
主文
一、本訴について
1. 原告らの被告らに対する別紙物件目録記載の自動販売機の売買代金債務金二八万六三〇〇円の不存在確認の訴を却下する。
2. 原告らが、破産者三共物産株式会社に対し、金二六万一七〇〇円とこれに対する昭和五六年七月三日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金債権を有することを確定する。
3. 原告らのその余の請求を棄却する。
二、反訴について
1. 原告らは、被告会社に対し、各自金三八万五二九二円と内金三六万二四一九円に対する昭和五六年七月一七日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
2. 被告会社のその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用は、本訴反訴を通じて、原告らに生じた費用の五分の一と被告破産管財人に生じた費用を被告破産管財人の負担とし、原告らに生じたその余の費用と被告会社に生じた費用を原告らの負担とする。
四、この判決の第二項1は、仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求める裁判
(本訴について)
一、原告ら
1. 被告らは各自、原告らに対し、金二六万一七〇〇円とこれに対する昭和五六年七月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2. 原告らと被告らとの間で、昭和五五年二月一二日付別紙物件目録記載の自動販売機(以下本件機械という)の売買契約に基づく原告らの被告らに対する金二八万六三〇〇円の代金債務が存在しないことを確認する。
3. 訴訟費用は、被告らの負担とする。との判決並びに第1項につき仮執行の宣言。
二、被告ら
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は、原告らの負担とする。
との判決。
(反訴について)
一、被告会社
原告らは、被告会社に対し、各自金三八万五二九二円と内金三六万二四一九円に対する昭和五六年七月一七日から支払ずみまで年一八・二五パーセントの割合による金員を支払え。
訴訟費用は、原告らの負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言。
二、原告ら
被告会社の請求を棄却する。
訴訟費用は、被告会社の負担とする。
との判決。
第二、当事者の主張
(本訴について)
一、請求の原因事実
1. 原告らは、「オモチヤの店とも」の屋号で、玩具類の小売を、訴外大阪総合信用株式会社(以下訴外会社という)及び被告会社(当初の商号は、西日本総合信用株式会社、昭和五九年四月一日、商号変更により現在の商号になった)は、割賦購入斡旋を各業とし、訴外三共物産株式会社(以下破産会社という)は、自動販売機の販売を業としていた。
2. 原告らは、共同して、昭和五五年二月一二日(以下月日で記載したときは、昭和五五年のことである)、破産会社から、本件機械引渡しの日から六か月間販売利益(毎月の商品売上代金から、本件機械の分割支払金、本件機械の作動に要する電気料金及び販売商品仕入れ代金を差し引いたもの)が生じなければ、破産会社が無条件で本件機械を引き取り、支払済代金を原告らに返還するとの特約の下に、本件機械を代金五四万八〇〇〇円で買い受け(解除条件付売買)、同月一四日、破産会社から、本件機械の引渡しを受けた。
3. 原告長谷川恵美子は、二月一八日、訴外会社との間で、訴外会社が本件機械代金の内金五〇万円を、原告らに代わって、破産会社に立替払をし、原告らが、訴外会社に対し、立替金を分割して支払う旨のショッピングローン契約を締結し、原告長谷川実は、同日、訴外会社に対し、原告長谷川恵美子の右ショッピングローン契約上の債務を連帯保証した。
4. 被告会社は、一〇月一日、訴外会社から営業譲渡を受け、訴外会社の本件ショッピングローン契約上の債権債務を承継取得した。
5. 原告らは、三月五日から昭和五六年二月二六日までの間に、破産会社に対し金四万八〇〇〇円、訴外会社及び被告会社に対し金二一万三七〇〇円の合計金二六万一七〇〇円を支払った。
6. 原告らは、二月一四日、本件機械を肩書地に設置して缶ジュース等の販売を開始したが、以後七月二六日まで、右の販売利益が生じなかった。したがって、本件機械の売買契約は、解除条件の成就によって失効した。
7. ところで、被告会社は、原告らに対し、破産会社と同じ内容の責任を負担しなければならない。すなわち、
(一) 破産会社と訴外会社との間には緊密な協同関係があり、ショッピングローン契約は、売買契約の代金支払方法たる性質を有するから、破産会社と訴外会社とは、法的にも一体であり、訴外会社は、共同売主の地位に立つということができる。したがって、訴外会社から営業譲渡を受けた被告会社も、原告らに対し、破産会社と同じ内容の義務を負う。
(二) また、信販会社は、販売店に商品代金を立替払することによって、商品所有権と割賦代金債権を取得するが、これは、買主に対して販売店が有するすべての権利の移転であり、契約上の地位の移転というべきである。そうすると、販売店が負担していた売主としての義務については、信販会社が併存的債務引受けをしたと解されるから、被告会社と破産会社は、共同して、売主としての義務を負う。
8. 前述したとおり、本件機械の売買契約は失効したが、本件ショッピングローン契約も失効した。すなわち、
(一) 本件ショッピングローン契約の本質を、代位弁済契約または販売店の顧客に対する売買代金債権の買取契約であるとすると、被告会社の原告らに対する債権は、本件機械の売買代金そのものであるから、売買代金債権が解除条件の成就によって消滅するときには、被告会社の原告らに対する請求権も消滅する。
(二) 本件ショッピングローン契約には、売買契約と同じ解除条件が付されていたと解すべきである。
本件ショッピングローン契約は、破産会社の社員が訴外会社の代理人として、原告らとの間で成立させたものである。そして、破産会社は、前記解除条件を付して売買契約を成立させ、それを前提として、本件ショッピングローン契約を成立させたから、本件ショッピングローン契約にもまた、売買契約と同一の解除条件が付されていたというべきである。
(三) 本件ショッピングローン契約に解除条件が付されていなかったとすると、同契約は、要素の錯誤によって無効である。
原告らは、本件機械の売買契約が有効に存続することを前提として本件ショッピングローン契約を締結したのであり、売買契約が失効してもなお立替金を支払う意思はなかったのであるから、本件ショッピングローン契約が売買契約失効後も存続するとすると、本件ショッピングローン契約は、要素に錯誤があり無効である。
(四) 本件機械の売買契約が解除条件の成就により失効すると、本件ショッピングローン契約も、当然失効するというべきである。
(1) 本件ショッピングローン契約は、本件機械の売買契約に従たるものであり、売買代金履行に関する特約としてなされたものであるから、両契約の効力は相互に依存するものである。
(2) 信販会社と販売会社との間の前記のような密接不可分な関係及び契約当事者の意思からすると、債権関係における信義則上、両契約は、互いに効力上あるいは履行上の牽連関係があるとすべきである。
9. それにも拘らず、被告らは、原告らに対し、本件機械の売買残代金二八万六三〇〇円の支払を求めている。
10. 破産会社は、昭和五七年九月二日、京都地方裁判所で破産宣告を受け、被告破産管財人が破産管財人に選任された。
原告らは、本件機械の売買契約の解除条件成就による既払売買代金二六万一七〇〇円の返還請求権の債権届出をしたが、被告破産管財人は、債権調査期日に、右届出債権に異議を述べた。
11. 結論
原告らは、
(一) 被告破産管財人に対し、原告らが破産会社に対して、既払の売買代金二六万一七〇〇円の返還請求権とこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五六年七月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金債権を有することの確定
(二) 被告会社に対し、右と同額の金員及び遅延損害金の支払
(三) 被告らに対し、本件機械の売買残代金債務金二八万六三〇〇円の不存在の確認
を求める。
二、被告らの認否と主張
(認否)
1. 被告破産管財人
(一) 本訴の請求の原因事実中1、9、10の各事実は認める。
(二) 同2の事実は認める。但し、解除条件の特約の点を否認する。
(三) 同5の事実は認める。なお、破産会社は、さらに、訴外会社から、残代金五〇万円の立替払を受けた。
(四) 同6の事実は不知
(五) 同7、8の主張は争う。
2. 被告会社
(一) 本訴の請求の原因事実中1、3ないし5の各事実は認める。
(二) 同2の事実は認める。但し、解除条件の特約の点は不知。
(三) 同6の事実は不知。
(四) 同7、8の各主張は争う。
(五) 同9は、争う。被告会社は、原告らに対し、本件機械の売買代金ではなく、立替金及び立替手数料の合計金三八万五二九二円を請求しているのである。
(六) 同10の事実は認める。
(被告会社の主張)
本件ショッピングローン契約は、本件機械の売買契約に伴ない締結されたものではあるが、両契約は、別個独立の契約であり、訴外会社と破産会社が法律上一体であるとか、主従の関係にあるとかいうことはできないし、単なる代位弁済契約や債権買取契約ではない。したがって、仮に、原告ら主張のような解除条件が本件機械の売買契約に付され、それが成就したとしても、本件ショッピングローン契約は、なんら影響を受けない。
(反訴について)
一、請求の原因事実
1. 訴外会社は、二月一八日、原告長谷川恵美子との間で、次の内容の本件ショッピングローン契約を締結した。
(一) 訴外会社は、同原告が破産会社から買い受けた本件機械代金の内金五〇万円を、同原告に代わって立替払する。
(二) 立替手数料は、金一三万八五〇〇円とする。
(三) 同原告は、訴外会社に対し、立替金及び立替手数料合計金六三万八五〇〇円を、三月二六日を第一回として、以後三六回にわたり、毎月二六日限り、金一万七七〇〇円宛支払う(但し、第一回目は金一万九〇〇〇円)。
(四) 同原告が割賦金の支払を怠り、訴外会社から二〇日以上の相当の期間を定めて、その支払を書面で催告されたにもかかわらず、その期間内に支払わなかったときは、同原告は、残金につき、当然に期限の利益を失う。
(五) 遅延損害金は、年一八・二五パーセントの割合とする。
2. 原告長谷川実は、二月一八日、訴外会社に対し、原告長谷川恵美子の訴外会社に対する前項の債務の連帯保証をした。
3. 訴外会社は、三月一五日、訴外共立物産株式会社(破産会社の仕入先、以下共立物産という)を経由して、破産会社に対し、本件ショッピングローン契約に基づき、本件機械の代金五〇万円を支払った。
4. 被告会社は、一〇月一日、訴外会社からショッピングローン業務の営業譲渡を受け、訴外会社は、同日、原告長谷川恵美子に対し、本件ショッピングローン契約に基づく、訴外会社の同原告に対する一切の債権を被告会社に譲渡した旨を通知した。
5. 原告長谷川恵美子は、訴外会社及び被告会社に対し、第一ないし第一二回分の立替金の合計金一三万七五八一円及び立替手数料の合計金七万六一一九円を支払ったが、その後の支払をしなかった。そこで、被告会社は、同原告に対し、昭和五六年六月二五日到達の書面で、三週間の期間を定めて、第一三ないし第一五回分の立替金及び立替手数料の合計金五万三一〇〇円とこれに対する年一八・二五パーセントの割合による約定遅延損害金の支払を催告したが、同原告は、その支払をしなかった。したがって、原告らは、同年七月一六日の経過により期限の利益を失った。
6. 結論
被告会社は、原告らに対し、本件ショッピングローン契約に基づき、各自、立替金及び立替手数料の残額の合計金四二万四八〇〇円から期限未到来の立替手数料相当額を控除した金三八万五二九二円と内金三六万二四一九円(立替金残金)に対する昭和五六年七月一七日から支払ずみまで約定利率年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
二、原告らの認否と主張
(認否)
1. 反訴の請求原因事実1は認める。但し、(二)の事実はのぞく。
2. 同2の事実は認める。
3. 同3の事実は不知。
4. 同4の事実は認める。但し、被告会社主張の債権譲渡通知がなされたことは否認する。
5. 同5の事実のうち、同原告の不払及び同原告に対する催告書面の到達は認め、その余の主張は争う。
(主張)
1. 原告らと被告会社との間の本件ショッピングローン契約は、本件機械の売買契約に付された解除条件の成就により失効し、原告らの債務は消滅した。
右主張の内容は、本訴の請求原因事実6ないし8に記載したとおりである。
2.仮に、そうでないとしても、被告会社は、原告らに対し、本件機械の共同売主としての地位に立ち、本件機械は割賦販売法の指定商品に該当するから、本件ショッピングローン契約には同法六条が適用される。
仮に、そうでないとしても、購入者保護という同法の目的を徹底させるため、本件ショッピングローン契約に同法六条が準用されるというべきである。
これらの場合、本件ショッピングローン契約が解除されていないことは、同条の適用または準用の妨げにならない。原告らは、被告会社から、残金の一時払を請求されており、その実質において、解除の場合と異ならないからである。
したがって、遅延損害金を年一八・二五パーセントの割合とする旨の約定は、商事法定利率の年六分を超える部分について無効であり、被告会社の遅延損害金の請求もその限度で許されるにすぎない。
三、被告会社の反論
1. 原告らの主張はすべて争う。
2. 割賦販売法六条は、割賦販売業者との間の契約が解除された場合に関する規定であり、割賦販売業者の取得する利益が、通常の販売利益と割賦手数料であることに着目して、規定されたものである。ところが、信販会社の利益となるのは立替手数料のみであるなど、信販会社は、割賦販売業者と、その利益の取得形態を異にする異質の法主体である。また、もし、同条をショッピングローン契約に準用し、「割賦販売価格に相当する額」を立替払金額とするならば、遅延損害金の額は、立替手数料に比してあまりに低額となり均衡を失する。
したがって、同条は、本件ショッピングローン契約に適用または準用されないというべきである。
第三、証拠関係<省略>
理由
一、本訴中の被告破産管財人に対する請求について
1. 原告らは、「オモチヤの店とも」の屋号で、玩具類の小売を、訴外会社及び被告会社は、割賦購入斡旋を、各業とし、破産会社は、自動販売機の販売を業としていたこと、原告らが、破産会社から本件機械を買い受け、その引渡しを受けたこと、原告長谷川恵美子が、訴外会社との間で、本件ショッピングローン契約を締結し、原告長谷川実がその債務を連帯保証したこと、被告会社が、訴外会社から営業譲渡を受けその債権債務を承継取得したこと、原告らが破産会社に対し、本件機械代金として、金四万八〇〇〇円を支払ったこと、及び、破産会社が破産宣告を受けて、被告破産管財人が破産管財人に選任され、原告らの金二六万一七〇〇円の債権届出に対し異議を述べたこと、以上のことは、当事者間に争いがない。
2. 原告ら主張の解除条件特約の存否について判断する。
<証拠>によると、次のことが認められ、この認定に反する証拠はない。
(一) 破産会社の従業員訴外福山某ら二名は、一月中旬ころから二月初めにかけて、原告らの自宅を訪れ、原告らに対し、缶ジュース類の自動販売機の購入を勧め、原告らは、各数回ずつ、これに応対した。
福山某らは、その際、原告らに対し、「破産会社で調査したところ、ここは場所が良いから、きっと儲かる。一日に一七、八本売れれば、機械代も電気代も仕入も出る。それ以上売れれば、おたくの儲けになる。ここなら一七本以上売れるのは確実だ。」などと言って説得したが、原告らは、自分たちが経営する玩具店のイメージが壊れることなどを理由に断り続けた。
(二) 福山某らは、二月一二日、原告らの自宅で、原告らに対し、「取り敢えず、六か月間置いてみて、利益が出なければ、無条件で機械を引き取る。原告らが支払った代金は返還し、絶対損はかけない。」と述べた。
(三) そこで、原告らは、そのような約束があるのなら、自動販売機を購入してもよいと考え、福山某に対し、その約束を念書に記載して差し入れるよう求めたが、福山某から、「絶対に間違いは起こさない。信用して欲しい。」と説得されて、念書をとることを諦め、同日、福山某との間で、本件機械の売買契約を締結した。
(四) 原告長谷川恵美子は、二月一五日ころ及び三月五日、福山某に対し、右約束の念を押したが、福山某は、「そんなおかしいことは絶対しない。信用して欲しい。」と述べた。
(五) 破産会社の従業員は、自動販売機の売上げを伸ばすため、しばしば顧客に対し、六か月とか一年とかの間置いてみて、利益が上がらなければ、破産会社が商品を引き取るとか、支払済の代金を返還するとかの口約束をしたり、その旨の念書を差し入れたりしたため、これをめぐって、顧客との間で、度々紛争が生じた。そして、破産会社も、これらの約束に基づいて、顧客の信販会社に対する立替金債務を肩代わりしたり、支払済代金を顧客に返還したりしたことがある。
(六) このような経緯で破産会社に返品された自動販売機は、破産時において、四二台あった。
以上認定の事実によると、本件機械の売買契約には、原告らが主張するとおり、設置後六か月間に利益が上がらない場合には、本件機械を引き取り、既払代金を返還する旨の解除条件がつけられたとしなければならない。
そして、原告らが、本件機械によるジュース類の販売で、二月一四日から七月二六日までの間、販売利益を上げることができなかったこと、そのため、原告らは、そのころ、本件機械による缶ジュース類の販売をやめ、本件機械を物置にしまい込んで保管していること、原告らが、三月二六日から昭和五六年二月二六日までの間に、訴外会社及び被告会社に対し、合計金二一万三七〇〇円を支払ったこと、以上のことは、<証拠>によって認められ、この認定に反する証拠はない。
以上認定の事実によると、本件機械の売買契約上の解除条件は、本件機械の設置から六か月後の八月一四日の経過により成就し、破産会社は、原告らに対し、本件機械を収去するとともに、原告らが、既に支払った合計額金二六万一七〇〇円を返還しなければならない法律上の義務を負うことになる。
3. 原告ら主張の本件機械の売買代金債務不存在確認請求について判断する。
被告破産管財人は、原告らの金五四万八〇〇〇円の本件機械の代金債務について、原告らの破産会社に対する金四万八〇〇〇円の支払及び訴外会社の破産会社に対する金五〇万円の立替払があったことを自認している。そうすると、原告らの被告破産管財人に対する金二八万六三〇〇円の本件機械の残代金債務のないことの確認請求は、確認の利益を欠き、不適法である。
4. そうすると、本件機械の売買契約には、原告ら主張のとおりの解除条件が付され、それが成就したから、被告破産管財人は、原告らが、破産会社、訴外会社及び被告会社に支払った本件機械の売買代金の内金、立替金及び立替手数料の合計金二六万一七〇〇円とこれに対する本件訴状が同被告に送達された日であることが本件記録上明らかな昭和五六年七月二日の翌日である同月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、各原告に支払わなければならないことになるから、右債権の確定を求める原告らの請求は正当である。しかし、原告らの被告破産管財人に対する債務不存在確認の請求に関する訴は、不適法といわなければならない。
二、本訴中の被告会社に対する請求及び反訴請求について
1. 訴外会社と原告長谷川恵美子との間で、被告会社主張のとおりの内容の本件ショッピングローン契約が締結されたこと(但し、立替手数料の点は除く)、原告長谷川実がその債務の連帯保証をしたこと、被告会社が訴外会社から営業譲渡を受けて債権債務を承継取得したこと、及び、原告長谷川恵美子が第一三回目以降の立替金の支払を怠り、被告会社から催告の書面を受け取ったこと、以上のことは、当事者間に争いがない。
2. 本件ショッピングローン契約の効力について判断する。
(一) <証拠>によると、次のことが認められ、この認定に反する原告らの各本人尋問の結果の各一部は採用しないし、ほかに、この認定に反する証拠はない。
(1) 前記福山某ら二名は、二月一五日、訴外会社に対する六枚綴のショッピングローン契約申込関係書類用紙(乙第一一号証の一ないし六と同形式のもの)を持参して、原告らの自宅を訪れた。
原告長谷川恵美子は、福山某の求めに応じ、右用紙の申込人欄に同原告の氏名や住所、生年月日などを、連帯保証人欄に原告長谷川実の氏名や住所、生年月日などを、各記載して押印し、返済預金口座欄に銀行の届出印を押捺した。他の事項は、福山某が記載した。
福山某は、原告長谷川恵美子に対し、右書類のうちのお客様控(甲第七号証)を手交した。
(2) 訴外会社大阪支店の従業員訴外門田某は、二月一五日午後五時五〇分ころ、破産会社の従業員訴外平岡某から、電話で、原告らに対する本件機械の売買契約についてのショッピングローン利用の申出を受け、申込者及び連帯保証人の氏名や住所、商品名、価格、返済預金口座などの必要事項を聴取して、電話受付申込書(乙第一三号)を作成した。
(3) 訴外会社は、右電話受付申込書に基づき、社内資料により原告らの過去の実績調査を行い、さらに、訴外会社の調査担当者の訴外田中敦子が、日本情報センターに原告らに関する情報を問い合わせたり、原告らの住居、電話番号、勤務先を地図や電話帳で確認したりした。
(4) 田中敦子は、原告らの本件ショッピングローン契約及び連帯保証契約の申込意思を確認するため、二月一八日午前九時五五分ころ、原告らの自宅に電話をかけたが、原告長谷川実が不在であった。そこで、原告長谷川恵美子に対し、破産会社と提携している信販会社の者であることを名乗り、同原告の氏名、生年月日、職業や立替金の支払方法などを確認し、本件機械が買取りであり、収益の有無にかかわりなく、定められた金額の支払をしなければならないこと及び立替手数料が金一三万八五〇〇円であることを告げ、同原告にショッピングローン契約締結の意思があるかどうか確かめたところ、同原告は、これらのことを了承し、契約締結の意思がある旨を答えた。
(5) 田中敦子は、同日午後零時一〇分ころ、再び原告らの自宅に電話をかけ、原告長谷川実に対し、自分が信販会社の者であることを名乗り、原告長谷川恵美子と同様の事項を確認したうえ、本件機械が買取りであり、収益の有無に関りなく、定められた金額の支払をしなければならないこと及び立替手数料が金一三万八五〇〇円であることを告げ、原告長谷川実に連帯保証契約の意思があるかどうか確かめたところ、同原告は、これらのことを了承し、契約締結の意思がある旨を答えた。
(6) 原告らは、いずれも、右電話による確認に当たり、田中敦子に対し、破産会社との間で、本件機械の売買契約に前記認定の解除条件が付されていたことを告げなかった。それは、原告らが、本件機械の売買契約に当たり、福山某から、後で電話があるはずだから、その時はハイハイとだけ答えておいてくれと指示されていたからであった。
(7) 訴外会社は、自動販売機を購入した顧客とのショッピングローン契約締結については、特に厳格な基準を設けていた。その理由は、自動販売機の購入は、その性質上、営業を目的とし、儲かるときと儲からないときがあるため、返済計画が立てにくいうえ、購入者に専門的知識がない場合が多いため、紛争が生じやすかったからである。そして、その基準とは、別世帯の保証人の確保、顧客に対する商品が買取りであって、売上げの多少にかかわらず一定額を返済することの確認、自動販売機の設置場所の適否などであった。また、顧客に対する電話確認は、訓練を積んだ従業員が行い、電話での会話は、録音テープに記録しておくこととされていた。
右田中敦子による電話確認も、訴外会社のこのような方針に従って行われたものであり、その会話は、すべて録音された。
(8) 訴外会社は、原告らに対する信用調査の結果に問題はなかったものの、本件ショッピングローン契約の連帯保証人が申込者の夫であったため、保証人は別世帯の者とする訴外会社の基準に合致しなかった。
そこで、訴外会社は、この契約申込に対する承諾を留保し、別世帯の保証人を追保させようとしたが、破産会社の代表取締役訴外友渕眞悟の依頼があったので、そのまま成立させることにし、部長の決済を受けた。
(9) 訴外会社は、二月一八日午後二時五三分ころ、破産会社に対し、本件ショッピングローン契約及びその連帯保証契約の申込を承諾する旨を通知した。
(10) 訴外会社は、その後、破産会社から、ショッピングローン契約書(乙第一号証)の送付を受けた。
(二) 原告らは、本件機械の売買契約に付された解除条件の成就により、原告らの債務は消滅し、被告会社は破産会社と同じ内容の債務を負担するとして、種々の法律上の主張をしている。しかし、右認定の事実関係の下においては、本件機械の売買契約と本件ショッピングローン契約とは、別個独立の法律関係であるとするのが相当である。したがって、原告らの主張は、いずれも採用しない。
(三) 原告らは、さらに(1) 本件ショッピングローン契約は、原告長谷川恵美子と、訴外会社の代理人である破産会社との間で締結されたもので、これらの契約には、本件機械の売買契約と同じ内容の解除条件が付されていた、(2) 原告長谷川恵美子には、本件ショッピングローン契約を締結するに当たり要素の錯誤があった、(3) 訴外会社と破産会社との間には、緊密な協同関係があるから、本件機械の売買契約に関して生じた解除条件成就の効果は、信義則上、本件ショッピングローン契約にも及び、その効力は消滅する、と主張しているので、これらの点について判断する。
(1) 前記認定事実によると、訴外会社が、自ら本件ショッピングローン契約を締結することを決定し、その意思表示をしているといえるから、破産会社が訴外会社の代理人として、本件ショッピングローン契約を締結したとすることはできない。
(2) 原告らの主張する要素の錯誤は、結局、動機の錯誤にすぎない。また、前記認定事実によると、田中敦子は、電話確認の際、原告らに対し、本件機械は買取りであって利益の有無にかかわらず、立替金を支払わなければならないことを説明し、原告らは、それを了承した上で、福山某の指示に基づき、解除条件の存在を告げず、ハイハイと返事をしたのであるから、原告らが主張する要素の錯誤はなかったというべきである。
(3) 前記認定事実によると、訴外会社と破産会社との間に緊密な協同関係があったとすることはできないし、ほかにこのことが認められる証拠はない。さらに、本件は、商人である原告らが、営利の目的で自動販売機を購入するに際し、販売についての見通しを誤ったにすぎず、また、田中敦子による電話確認の際、原告らは、本件機械の売買契約に解除条件が付されていることを告げていないのである。このことを考えたとき、本件ショッピング契約と本件機械の売買契約は、別個の契約である以上、解除条件が、信義則上本件ショッピング契約に当然付されたことになる理はない。
したがって、原告らの主張は、いずれも失当である。
3. 原告らと訴外会社との間で立替手数料を金一三万八五〇〇円とする旨の合意がなされていたこと、訴外会社が、三月一五日、共立物産を経て、破産会社に金五〇万円の立替払をしたこと、訴外会社が、一〇月一日ころ、原告長谷川恵美子に対し、本件ショッピングローン契約に基づく立替金及び立替手数料債権を被告会社に譲渡した旨を通知したこと、以上のことは、前記認定事実や<証拠>によって認めることができ、この認定に反する証拠はない。
4. 本件ショッピングローン契約と割賦販売法(以下法という)六条との関係について判断する。
(一) 前記判示のとおり、被告会社は、破産会社と共同売主の関係に立つものではないから、本件ショッピングローン契約に、法六条が適用されることはない。
(二) そこで、本件ショッピングローン契約に同条が類推適用されるかどうかであるが、当裁判所は、同条が本件ショッピングローン契約に類推適用されるべきものと判断する。その理由は、次のとおりである。
法の目的が割賦販売における購入者の保護にあることは明らかであり、法六条の立法趣旨は、その中にあって、購入者に義務違反があった場合、購入者に過大な損害賠償が請求されることを防ごうとする点にある。そして、本件機械が法の指定商品に該当し(法施行令一条一項、別表第一第一八条の二)、本件ショッピングローン契約の立替金が、「二月以上の期間にわたり、かつ、三回以上に分割して」(法二条一項)支払うものであるから、原告らのおかれた状況は、割賦販売における購入者と異ならず、これを保護すべき必要性も同じであるといえる。但し、ショッピングローン制度の特質から、法六条を本件ショッピングローン契約に類推適用するに当たっては、同条の「商品の割賦販売価格」とは、立替金に立替手数料を加えた金額と読みかえる必要があるとしなければならない。
また、同条は、契約が解除されたことを前提としているが、本件のように契約が解除されずに立替金残額の一時払が請求されている場合を、特に除外する理由がないから、本件ショッピングローン契約が解除されていないことが、同条の類推適用の妨げとなるものではない。
(三) したがって、被告会社は、商事法定利率年六分の割合を超える遅延損害金の支払を、原告らに対して請求することはできないことに帰着する。
5. 被告会社は、被告会社の原告らに対する債権は、立替金及び立替手数料の残金であると主張し、原告らの主張する原告らの被告会社に対する本件機械の残代金債務の存在しないことを自認しているから、原告らの被告会社に対する売買残代金債務のないことの確認請求は、確認の利益を欠き、不適法である。
6. そうすると、原告らの被告会社に対する、本件機械の売買残代金債務の不存在確認の請求に関する訴は不適法であり、原告らは、被告会社に対し、本件ショッピングローン契約に基づく立替金及び立替手数料の残金合計金四二万四八〇〇円とこれに対する昭和五六年七月一七日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払わなければならないから、原告らの被告会社に対するその余の本訴請求は失当であり、却って、被告会社の原告らに対する反訴請求は右立替金及び立替手数料残金の一部である金三八万五二九二円と内金三六万二四一九円に対する同日から支払ずみまで年六分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、これを超える反訴請求は、失当である。
三、以上の次第で、原告らの本訴請求のうち、被告破産管財人に対する金二六万一七〇〇円の売買代金返還請求権とこれに対する昭和五六年七月三日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金債権を有することの確定を求める請求は認容し、被告らに対する本件機械の売買残代金二八万六三〇〇円の債務不存在確認の請求に関する訴を却下し、被告会社に対するその余の請求を棄却し、被告会社の反訴請求は、原告らに対する各自金三八万五二九二円と内金三六万二四一九円に対する同月一七日から支払ずみまで年六分の割合による金員の支払を求める限度で認容し、その余の請求は棄却することとし、民訴法八九条、九二条、一九六条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 小田耕治 長久保尚善)
<以下省略>